岡本綺堂が九等俳優
頭取の連印なしで許可
身を以て劇界刷新の衝に當らんとし新たに同志を結合し、來月一日より一週間明治座に於て開演する文士演劇の一員たる岡本綺堂氏は、率先して本月七日原籍所在の麹町區役所へ俳優開業屆を出し九等鑑札を下されしが、これまで新たに俳優開業屆を爲すには俳優組合頭取の連印を要したるも、文士演劇の俳優諸氏は其の組合によらずして別に一旗幟を樹つる者なれは、頭取の連印を潔しとせず茲に連印なしにて出願せしが、同區役所も便宜を與へて直ちに下附さるゝ事となれし、開業屆は左の如し。
開業御屆
九等俳優
藝名、綺堂
右鑑札御交附附相成度候也
但し頭取は無之候
右及御屆候也
明治丗九年十一月七日
東京市麹町區元園町一丁目十九番地東京府平民
岡本 敬二
明治五年十月十五日生
因に俳優の等級は一等より九等迄にして、九等は最下級に屬するも、其技藝の等級とは見るべからず、さて九等の税金は年税1圓五十錢にして、それに市税、特別税の附加税を合わせて半期一圓二十錢を要す、一等俳優の本税は年税百八十圓なれば、九等の一圓五十錢に比すれば百の一弱に相當す。