logoyomu.jpg

 綺堂ディジタル・コレクション

つぎは、綺堂のオリジナル作品をデジタル化したものです。
 劇作家としてデビューした直後の綺堂さんの芝居役者評で、珍しいですね。
 なお、入力者自身による校正はいたしましたが、ベーター版ですので誤字などありましたら、ご連絡ください。




「羽左衛門、其の富樫、め組の辰五郎
  吉右衛門、其の地震加藤
  河合武雄、其のでんばうな役」

                   岡本綺堂
kido_in.jpg


 これが私の好きな役者である。
 私の羽左衛門に好いと思ふ所は、其の輪郭の明瞭(はつき)りした、きまりどころの鮮やかな所にある。羽左衛門ほどすつきりした、役者らしい役者は、先づ彼を措いては、今の処見当たらないと云っても差支あるまいと思ふ。「辰五郎」や、「富樫」は其の代表的の役である。
 羽左衛門の「富樫」は、形の好い点では、天下一品であろうと思ふ。宛然(えんぜん)絵であり、また彫刻のやうであつた。
 吉右衛門に好きな処は彼の芸に寂しみのあるのが好きである。
 彼の「三浦の助」のやうな物も悪くはないが、私は矢張り彼の芝居と云へば、「地震加藤」のやうなものが動かない所だらうと思ふ。
 河合の好い所は、調子である。一寸聞くと何んだか変だが、然し、あの玉を転がすやうな調子は、凝(じつ)と聞いて居れば居る程好い所がある。
 殊に伝法な役を演つて、啖呵を切る所などは、あの人でなければと思わせる所がある。

------
『演芸画報』6年4号138頁(明治45年4月19日)(ルビ省略の個所あり)
入力:和井府 清十郎




(c) 2001. All Rights Reserved. Waifu Seijyuro.


綺堂事物ホームへ
inserted by FC2 system