大衆文藝の作家も多い中で、佐々木君の如きは確に一種の異彩を放つた作家であつた。純文藝の方面から轉じた人だけに、おのづから俗氣が乏しく、気品の高いところに其價値が見出される。私は自分が「半七捕物帳」を書いた關係から同君の「右門捕物帖」を最も注意して讀んだが、どの話も實に面白い。變幻怪奇を極めてゐながら、而もその徑路の井然として一絲亂れざる點は方に探偵物語の典型とも見るべきであらう。佐々木君は他にも多量の大衆小説を製作してゐるが、この「右門捕物帖」の一作だけでも、優に大衆作家の首班たるべき資格があると思ふ。これは我田引水的の偏見でない。
底本:岡本綺堂「捕物帖の作家として」『甘棠集』(佐々木味津三追悼集)、著作兼發行者 佐々木克子(私家版)、昭和10年3月6日發行
入力:石塚 尚志
公開:2002年9月18日