もくじ ・「探偵夜話」とは:12篇の刊行年代 ・「新古探偵十話」とは ・「探偵夜話」「新古探偵十話」を読む 探偵夜話とは 『岡本綺堂読物選集第6巻 探偵編』(青蛙房、1969)所掲の、岡本経一さんの「あとがき」(458−465頁)によると、 「探偵夜話」 春陽堂『綺堂読物集』4巻(1927・昭和2年5月刊) 「今古探偵十話」 同 第5巻 (1928・昭和3年8月刊) が、初めての「探偵物」の元となたもののようだ。 全2巻合計で22話あるという(春陽堂版未見のため)。関東大震災(大正12年9月)以前に書かれたものがほとんどで、掲載誌は不明のものが多いという。震災以後のは春陽堂版のものでは8編であるとしている。 震災以後に流行した探偵小説の時流に乗ろうとしたものではないともある。「むろん大正期のこれらの物語は、探偵小説として書かれたものではない」(岡本経一「はしがき」前掲書464頁)し、また「洒脱で淡白な彼の性情は、しょせん探偵小説を主体にふかいりできなかった」(465頁)と見ておられる。これは、今日の綺堂の探偵小説に対する見方とほとんど差はないと思える。 同書(青蛙房、1969)の巻頭言を書いた、松本清張によると、
* * * 現時点では、これら22編を収録したものはないようである。したがって、入手しにくい。せいぜい1、2編が切り取られて刊行されている程度である。ぜひ今後の一括した作品群の出版に期待したい。 という次第で、肝心な、初出誌名・出版年月日、が下記一覧表のように、ほぼ空欄になってしまった。これまた課題ということで、今後の調査を要しよう。情報など、ございましたら、ぜひご連絡いただけると、幸いです。 一覧表の「題名(タイトル)」欄にリンクがあるものは、こちら(「綺堂事物」)でディジタル化したものです。ご利用ください。今後このシリーズをもっぱらディジタル化していきたいと思っています。
探偵夜話の誕生 前述のように「探偵夜話の誕生」のいきさつは今のところ、半七シリーズのようには明確にはわからない(もしくは、私が知らないだけかも)。 いずれにしても、『探偵夜話』は、『青蛙堂鬼談』がそうであったように、小日向のキリシタン坂の上の、隠居した元弁護士の居宅で語られる話という体裁をとっている。この夜話に招待されたのは、4月末でつつじが咲いていた頃である。やはり星崎さんという人がまず口火を切って「火薬庫」の話をはじめた。 「探偵夜話」を読む ◇第1編 「火薬庫」 ◇第7編 「有喜世新聞の話」 明治15年頃の番町の屋敷町辺りが舞台で、綺堂自身の少年時代の頃(10歳ころ)を写し取ったといえばよいだろう。話も、新しく屋敷町に移ってきた人たち、また出てゆかざるを得なかった人たちの、ある種怨念のようなものを背景にして、薄暗き、また人気の少ないお屋敷町の雰囲気ともあいまって、幽玄の世界ともいえようか。コレラの話が出てきたり、なかなか舞台設定、当時の社会事情にも目配りが利いていて興味をそそられる。 あゝ、それにも増して、おとことをんな、である。出てゆかざるを得なかった階層の出である、美人の娘が元の屋敷に住む新しい所有者に引き取られて養育されるところから、悲劇の扉が少しずつ、きしみながら開いてゆく……。若き医師の卵、隣家の若き官員さん、医師の娘、旧幕臣の美人の娘、綾なす恋の糸。せっかちな親。絡みつき、ほどけない。そして毒薬。綺堂にしてからが、追われた階層の娘はやはり気味悪く書かれるのであろうか、はたまたそういうことが通奏低音であった御一新の世の中を描きあげたのであろうか。私が作家なら脚色して、テレビドラマに仕立て上げてもよいと思う。タイトルの有喜世新聞というのは、この新聞に載ったある奇妙な話が糸口になっているからである。綺堂の少年時代の番町あたりを扱ったものと見ても面白い。「穴」「火薬庫」と並んでよくできていると思う。 ◇第9篇 「穴」 舞台は、明治5年、高輪である。綺堂の実生活と引き合わせれば、彼自身が生まれた年で、また生まれた地でもある。英国公使館は高輪泉岳寺あたりにあり、綺堂の父・純(きよし)もこれに勤務していた。実際に父母や姉あたりから聞いたような、地形の描写であるのでリアリィも十分ある。また、幕府瓦解・明治維新といった大変革の混乱や庶民の状態がよく出ているように思う。 「新古探偵十話」を読む
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